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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

ラーテル

ねみねむ

 

 今から三〇と数年前、予定日から一ヶ月ほど急いで足から飛び出した私は、母のお腹を切って生まれた。小さめの赤ちゃんだった。
 生まれてまもなく母方の祖父が急逝、最愛の父を亡くした母は母乳が止まった。私は粉ミルクを断固拒否した。
 祖母がこれまで何度も「あんたはじいちゃんの生まれ変わり」と、目に涙を溜め言っていたのを覚えている。私としては「ちょっと違うな」と思っていた。まず性別が違う。
 そんな祖母が私の哺乳瓶に入れてくれたのが、なんと蜂蜜を溶いたお湯であった。"乳児に蜂蜜を与える危険性について"当時はその注意書きが表示され始めてから年が浅かった。親たちは大切な祖父の生まれ変わり、否、ハンガーストライキを決め込む赤子に何か摂らせることに必死だったのだ。
 人生において段階を踏んで得られるはずの高糖度を乳児期に食らった私は、強烈に蜂蜜の虜となる。その衝撃たるや細胞に刻まれ渇望したに違いない。幼少期の写真は驚きの丸さだ。その後もすくすく育った小学生の私は当然、ツツジやサルビアの蜜を吸った。
 アフリカなどに生息する"ラーテル"という、獰猛で「世界一怖い物知らず」との異名を持つイタチ科の獣も、好んで蜂蜜を食すという。ギリシャ神話のゼウスの子にも、蜂蜜で育った者がいるという。蜂蜜から広がる世界や歴史に興味は尽きない。
 視野を広くもってすればきっと、蜂蜜で育った人間がいて何らおかしいことはない。子育ての界隈で度々話題になる"母乳か粉ミルクどちらが良いのか"に悩む母親たちには「蜂蜜で育ったとしても、ぼちぼち丈夫な身体です」と教えてあげたい。
 無論、今でも蜂蜜を愛している。知れば知るほど奥が深く、種類によって異なる風味が楽しめるのはもちろんのこと、料理にも汎用性が高い。良いものや珍しいものを追い求めればきりがない。
 なにより私にとっては、蜂蜜から得られる安心感と嬉しさがある。今は亡き祖母とこのエピソードに度々思いを馳せている。世界中に蜂蜜があって、蜂蜜を使った食べ物があって、私はそれを体験する楽しみが無限にあるということを幸せに思いながら、日々、養蜂場の方々、働き蜂に感謝する。

 

(完)

 

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